090709 乾久美子さんのトークセッション

18時半から乾久美子さんのトークセッション。

僕は、乾さんのことは青木事務所の頃から知っているし、何度かお目にかかってもいるのだが、その講演を聞くのは初めて。青木事務所時代には、作品のコンセプトを示す面白いアニメなども作っていたし、独立後の作品や文章からも、感覚的な方との先入観があったのですが、今夜はそれが見事に覆った。

建築の決定根拠について、これほど筋の通った説明を聞いたのは、生まれて初めてかもしれないなあ。原稿無しで喋っておられたと思うのだけど、まるで数学の授業で、先生が黒板に何も見ずに、頭の中にある証明を板書しているのを眺めているような感じがした。

アパートメントIも、群馬の新しい別荘も、公園の中の花屋さんも、どれもこれも、その決定根拠が見事に説明された。しかも、建築の内部の言葉だけで、だ。

建築を建築外の言葉に頼らず、建築内部の言葉だけで喋るという姿勢は、青木淳君が最初に意識的にとり始めたものだと思うのだが(1999年の名古屋のルイヴィトンおよび住宅「B」から)、その姿勢を彼以上に徹底している感じがした。
青木君が、建築という言語で謎めいた物語をぐいと提出してくるとすれば、乾さんのお話しは、その言葉を教える先生が、その言葉で書かれた見事な小説か詩を題材に、下線を引いて「S、V、O」とか書きながら、「これが主語、これが動詞、これが目的語ね」と、その文法構造を説明してくれているみたいだった。

会場で僕は2つ質問をした。
ひとつは、まだ初期状態であった青木事務所をなぜ選んだのか。
答えはやはり上記のような青木君の姿勢を感じ取っていたかららしい。乾さんがはいったのは「動線体」の時期だから、その観察眼の鋭さに恐れ入った。

もうひとつはアパートメントIに対する説明についてだ。
彼女はとても上手いマンガを描いて、階ごとに違うそのプランの意味(全部の部屋が同じように通りに向く一般のアパートのようにではなく、通りに対して階ごとに異なるものが面するようにするといった感じのこと)を説明した。ならば立面はどうしてこんなに均質なんだろうという疑問に包まれ聞いていると、外周沿いの内部空間に生まれざるを得ない雑多な光景(洗面台の横にTシャツが積まれるなど)を、周囲に広がる東京の雑多な風景と一体化すればよいと思ったという説明が続き、「ああなるほど、そうくるか」と感心して聞きはしたが、でもそこには、最初のロジックとは別の価値観が混入しているともいえ、そのあたりはどう考えているのかと質問した。
答えは「説明の順序にはいつも悩む」ということばで始まるやはり明快なもので、数学の長い証明の中のバグを共に検討しているような一体感があり、うーん、嬉しかったなあ。

講演終了後、取り寄せたお弁当をつつきながら、さらにあれやこれや四方山話。
本当に楽しい一夜だった。
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by yoshiaki-hanada | 2009-07-10 18:47 | ●花田の日記
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