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090317 学期末、年度末、卒業設計日本一決定戦

学期末、年度末で思いがけずいろんなことがあり、しばらくの空白。

●12日(木):東京へ日帰り。日土小学校の改修工事に関する打ち合わせ。一歩前進。
新幹線の中で読んだのは、吉村昭『私の文学漂流』(ちくま文庫)。小説家になることへの不安と野心が、簡潔で謙遜に満ちた文体で描かれており、心洗われる思い。戦後間もなくの貧しい文化人の暮らしぶりもよくわかって興味深かった。

●16日(月):博士論文の増し刷りを依頼している印刷屋さんと大学で打ち合わせ。東大へ提出したものは自宅のプリンターで印刷したが、それよりも美しい仕上がりになりそうだ。日本一決定戦に主要メンバーが行ってしまい、中断していた坂倉準三展用の模型づくりも再スタート。

卒業設計日本一決定戦は、僕の研究室の牧野正幸君がファイナリスト10人に残り、残念ながら賞は逃がしたが、大健闘であった。それ以外にも、2人の学生さんが予選通過の100人にはいっていたようで、神戸芸工大としてはこれまでで一番の好成績であり、まずはめでたい。

仙台から帰って来た4年生や3年生の話によれば、今年の上位5作品には、昨年までとはやや傾向を異にするものが選ばれたようだ。ここしばらくは、空間性や物語性が強いものが目立っていたとすれば、今年は、社会性や理論性が重視されたとでもいえばよいか。決定戦の少し前に、東工大の学生さんの幻想的な図書館の卒計の画像がブログに掲載され、芸工大の学生も、そして僕も、「おお!」と思っていたのだが、それはファイナルの10作品に残っておらず、今年の審査の傾向を象徴する結果かもと思った次第。もちろんまだ詳しい情報はないので、あくまでも仙台帰りの学生諸君の話や見せてくれた画像からの想像ですが・・。

そんな雑談を大学で学生としていたら、横で聞いていた職員の方から、「<日本一>というのはこの企画の専売特許なんですか」という質問が出た。なるほど、他の地域で開かれているいろんな卒業設計のコンテストが「日本一」を決めたっていいわけだ。
それにしても、この企画は高校生の頃の全国模試に似ているとつくづく思う。しかも難関大学用の模試に、だ。僕の時代だと、旺文社や学研ではなく駿台による全国模試、あるいは始まったばかりだったと思うが河合塾による「東大入試オープン」という東大のプレ入試的全国模試である。
おそらく地方のマイナーな高校の生徒ほど、自分の学校内や旺文社・学研レベルの模試での成績ではなく、そういう特化されたエリート模試とでもいうべきものの成績を気にし、自分の位置の確認をオールジャパンでやることにヒロイズムを感じていたはずである。その感覚に近いんじゃないかなあと想像すると、この企画が学生諸君に与える影響やこの企画に対する学生諸君のスタンスが理解できるような気がしてくる。
しかし、自分のポジションを外的な数字で確認することへの誘惑は、受験という、一過的で、それ自体が目的ではない世界でなら有効としても、携帯電話やメールやらで他者との関係に敏感になった現代の学生諸君にとっての卒業制作というそれ自体がまさに大目標の檜舞台に対しては、独特の扇情効果、あるいは功罪をもっているようにも思われる。
つまり、全国的な卒計の動向を気にせざるを得なくなり、それへの距離の取り方自体をデザインしつつ卒計を考えるという奇妙な行動、受験に喩えるなら、東大や京大に何十人も、ときには100人以上もがはいるような受験のエキスパート高校では、自分の進路をそれらの同級生との比較というハイレベルで閉じた枠の中で決定してしまうことがあると聞くが(数学の天才みたいなやつがいるので少々できるくらいでは数学を専攻したいなんて言い出せない、というような)、そのようないわばもったいない自己規制行動が生まれる危険性がある一方で、「地方のマイナーな高校の生徒」だった僕からすると、たったひとりで受験のエキスパート高校と対等に勝負するというような孤立無援のヒーローとしての「ポジション」の描き方も可能であり、それはそれで人を奮い立たせ成長させる力をもったものであって、卒計においてはそういった構図が受験以上に成立するだろうから、「携帯電話やメールやらで」狭く閉じた学生諸君の「他者との関係」を打ち破る良い機会だと考えられなくもない・・・。

僕(ら)が学生の頃には他大学の卒計の情報なんかほとんどなく(早稲田の卒計展示会に1回行ったことがあるのみ)、そもそも他大学のことなど意識しないまま自分の頭だけを信じて卒計をやっていたわけで、したがって卒計とはまさに自分そのものであったといえる。少なくとも、そう信じ込むことができていたし、信じ込んでしまっていた。僕としては、そういう感覚が、情報の劇的な増加によって今の学生諸君から失われていないことを祈るのみだ。
by yoshiaki-hanada | 2009-03-18 01:23 | ●花田の日記
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