愛媛新聞「道標」(掲載 2008年6月22日) 連載5回目

社会で学ぶ学生たち
—自分の役割知り成長—

神戸芸術工科大学教授 花田佳明

 ここしばらく、私の研究室の3人の男子学生の姿を見かけない。優秀な4年生。期待の星なのに・・。
 といっても、物騒な事件などではない。神戸市内の湊川地区にある商店街に通いつめているのだ。同じような学生が、他の研究室や下級生の中にもかなりいる。
 彼らは、現地と大学で集めた数千本のペットボトルで、商店街の中の空きスペースに「図書館」をつくっている。ペットボトルを縦につなぎ、それを何列も並べてできる半透明の壁で空間を囲い、そこに手作りの木の棚や椅子を置く。そして、町の人々や学生たちが持ち寄ったいろんな本を並べるのだ。学生たちはそこを「まちとしょ」と名づけ、子どもたちから大人までの居場所にしようと考えている。
 この町と学生たちのつきあいは長い。商店街の組合からの依頼に端を発し、先輩から後輩へと引き継ぎながら、彼らはイベントを仕掛け、商店街のホームページを立ち上げ、空きスペースにパソコン教室をつくり、町の歴史を調べ、数年かけて地域との信頼関係を築いてきた。そういった背景のもとに生まれる今回の「まちとしょ」も、楽しい場所へと育っていくに違いない。
 学生が主体的に社会と関わるこのような活動が、私の大学ではたいへんに盛んだ。建築や町づくりから、ビジュアル、ファッション、プロダクト、漫画、映像、工芸など、あらゆるデザイン領域を扱う大学なので、社会との接点はいくらでもある。
 神戸の下町商店街の中の空き家を低家賃で借りて改装し、そこに住みながら町づくり活動で恩返しをする「住みコミュニケーションプロジェクト」。古い織物工場を、播州織りの展示・販売スペースとして再生させた西脇の「播州織工房館」。西宮の貴重な自然海浜を地域づくりに生かす「御前浜周辺整備計画」への参加。知的障害をもつ方々と共同で立ち上げた「みっくすさいだー」というデザインブランド。挙げ始めるときりがない(「 」内の言葉で検索すると詳しいホームページが見つかります)。
 教員の関わる度合いはプロジェクトによってさまざまだ。体制も、受託研究として活動資金を確保したり、行政から助成金をもらったり、授業の一部にして大学から経費を出すこともある。学生の熱意と行動力を信じ、大学は可能な限りのサポートをする。
 こういった活動は、民間のビジネスとも行政主導の事業とも違う。もちろん、企業での研修のような訓練の場でもない。大げさにいえば、これからの社会に求められる新しい「仕事」や「空間」の輪郭を探る実験なのだ。
 社会の中に出て行くことで、学生たちは確実に成長する。なぜならば、彼らは社会との自分なりの距離感をつかむからだ。果てしない「自分探し」や自分勝手な「格差社会批判」ではなく、そこでの自分の位置と役割を肯定的にとらえる技術を会得するのだ。私は、そのような機会の提供こそ、これからの大学の重要なカリキュラムのひとつだと信じている。
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by yoshiaki-hanada | 2001-08-25 22:37 | ●愛媛新聞「道標」欄の連載
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